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大阪地方裁判所 昭和39年(ヨ)328号 決定

申請人 大栄興業株式会社

申請人補助参加人 早嶋喜一 外九名

被申請人 吉本五郎右衛門

主文

本件仮処分申請は、これを却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

本件疏明資料によれば次の事実が認められる。

(1)  別紙第一目録〈省略〉記載の建物の敷地(但し店舗番号第三〇号、第一〇六号ノ一、の敷地の部分を除く。以下単に第一土地ともいう。)及び右第一土地上の建物について、本件被申請人が本件申請人外三名を相手に仮処分を申請し(当庁昭和三三年(ヨ)第一、七七六号事件)、昭和三三年七月二一日次のような趣旨、即ち(イ)本件申請人外三名の第一土地並びに同地上の焼残りの建物に対する占有を解いてこれを執行吏に保管させる(ロ)執行吏は、本件申請人の申出あるときは、本件補助参加人株式会社大日会館及び同岡田成寿のために焼残り建物の補修を許すことができる(ハ)右補修中及び完成後の建物は、前記執行吏の保管に附する(ニ)執行吏は、右本件補助参加人両名の申出あるときは、同人らが第一土地及び同地上の建物の状況を変更しないことを条件に従前と同種営業に使用を許さなければならない、との趣旨を含んだ仮処分決定(以下単に第一仮処分ともいう)があり、かつその執行がなされた。

(2)  これより先、別紙第二目録〈省略〉記載の建物の敷地(以下単に第二土地ともいう)及び右第二土地上の建物を含んだ土地建物について、本件被申請人が本件申請人外五名を相手として仮処分を申請し(当庁昭和三一年(ヨ)第二、三五五号)、昭和三一年一〇月二五日右第一仮処分とほゞ同趣旨の決定(但し建物についてのみ現状不変更の使用が許され、第二土地上の建物については、前記岡田成寿の外、本件外岡田芳子に使用が許されていた。以下単に仮処分ともいう。があり、かつその執行がなされていた(但し、第二土地及び該地上の建物に対する執行を残し、それ以外の部分の執行は、その後解放された)。

(3)  別紙第一、第二目録記載の建物(第一、第二仮処分により補修されて執行吏保管中のもの)が、昭和三九年一月三一日火災により滅失し、右建物の敷地上には焼残り材木ないしはそれに類する木材が存在している。

ところで、右認定の事実によれば、別紙第一、第二目録記載の建物並にその敷地(但し別紙第一目録記載の店舗番号第三〇号、第一〇六号ノ一、の敷地部分及び該敷地部分上の建物部分を除く)は、第一、第二仮処分の執行として、執行吏保管に付され、かつ現状不変更を条件として(但し第二土地を除く)本件申請人補助参加人株式会社大日会館及び岡田成寿(但し第二土地上の建物については岡田芳子)に対し使用が許容されていたものであるが、その後右第一、第二目録記載の建物は焼失し、不動産としての存在を失つたものと見なければならない。

しかるところ、本件仮処分申請の趣旨は、これを要するに、申請人が、別紙第一、第二目録記載の建物の、焼残り部分(建物)を、焼失前の建物と同種同構造のものに修築するのを、被申請人は妨げてはならない旨の仮処分命令を求めるというのであるが、右認定の如く、右第一、第二目録記載の建物は焼失して不動産としての存在を失つたのであるから、右申請の趣旨のように、焼残りの部分が未だ建物、従つて、不動産としての存在を保持していることを前提とし、これを修復することを内容として含むような仮処分命令を発令することは、不能を内容とするの故に、許されないことは、いうをまたない。また、本件申請の趣旨が、第一、第二目録記載の建物の焼跡に、更めて申請人が従前と同種同構造の建物を建築することを許容すべき仮処分命令を求める趣旨を含むものとしても、以下に述べる理由によつて、本件申請は認容しがたい。

建物敷地を地上建物と共に執行吏保管に付することは、もちろん、可能であり、また、右の場合に建物が焼失して不動産としての存在を失つたならば、執行吏保管の仮処分命令は、建物に関する限り、目的物喪失により、その効力を失う理であるけれども、敷地については、依然として、その効力を存続し、従つて執行の解放なき限り執行吏による敷地の占有、保管になんらの消長をきたさないものと解さねばならない。この場合、建物の焼失と同時に、敷地の執行吏占有ないし保管も失効すると解すべき根拠は、これを見出しがたい。

また、前認定のように、第一、第二仮処分命令は、いずれも、敷地並に地上の焼残り建物を執行吏保管に付し、かつ本件申請人に該建物の補修を許す趣旨のものであるが、このことから、右仮処分命令が、将来、右補修建物が焼失する場合をも予想し、その場合に焼失前と同種同構造の建物ならば、建築することを許容する趣旨をも含むものとは到底解しがたいところである。

右に見てきたように、別紙第一、第二目録記載の建物は、いずれも、昭和三九年一月三一日の火災により焼失し、不動産としての存在を失つたものであるから、焼失前と同種同構造の建物であつても、これを更めて、執行吏保管中の第一、第二土地上に建築することは、第一、第二土地の現状を変更することに帰し、従つて右建築を許容する仮処分を発令することは、第一、第二仮処分の効力に抵触し許されないものといわなければならない。

なお、前認定の如く、別紙第一目録記載の建物の敷地のうち、店舗番号第三〇号、第一〇六号ノ一の敷地部分については、第一、第二仮処分の効力との抵触問題の起りえないことは明らかであるが、本件申請の全趣旨によれば、申請人の意図するところは、別紙第一目録記載の建物の焼跡の全部ないしは大部分の敷地上に、従前とほゞ同種同構造の建物を再現することにあり、この点からみれば、別紙第一目録記載の建物に関する本件仮処分申請の趣旨が、別紙第一目録記載の建物のうち、店舗番号第三〇号、第一〇六号ノ一の敷地部分の如き狭小な敷地上に、別紙第一目録記載の建物に比して敷地面積の極度に狭い建物を建築することを許容すべき仮処分命令を求める趣旨をも含むと解することは困難であり、従つて別紙第一目録記載の建物の建築の許容を求める仮処分命令については、全体として判断すれば足りる。しかして、前記認定のように、別紙目録記載の建物の敷地の大部分は、建物を建築することが第一、第二仮処分の効力に抵触し、該地上での建物の建築が許容されないのであるから、別紙第一目録記載の建物についての仮処分申請も全体として許されないものといわざるをえない。

以上のとおりであるから、その余の点の判断を待つまでもなく、本件仮処分申請は許されないから、これを却下することとし、申請費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 宮崎福二 荻田健治郎 田畑豊)

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